森の中を、まるで普通の道を走るように進んでいた九鬼は、一瞬で追い抜かれたことに、唖然とした。

「何!?」

乙女ブラックになっていないとはいえ、相手の速さは異常だった。

そして、森の中でも開けた場所が見えた時、そこに立つ人間の姿をとらえた。

「やあ〜」

木漏れ日の中で、立ち尽くす男の前に、浩也が止まった。

「君は?」

浩也は男の気を探ったが、違った。確かにこちらの方から、感じたはずだった。

「僕の名前は、幾多流。君と同じ大月学園の生徒だ」

確かに、同じ制服を着ていることに気付き、浩也は自分の名前を名乗ろうとした。

「僕の名前は…」
「知ってるよ」

幾多は笑い、

「赤星君だね」

「!?」

自分の名前を告げられて、浩也は少し驚いた。

そんな浩也の様子に、幾多は苦笑した。

「君に自覚はないようだけど…君は、有名人だからね。赤星浩一君」

そして、少し試すような口調で、敢えてそのフルネームで言った。

「赤星浩一?僕は…赤星浩也だ」

否定した浩也を無視するように、敢えて幾多は言葉を続けた。

「異世界から来たのに、君は…この世界の人間の為に戦った。それは、素晴らしい行為だ。普通の人間にはできないことだ」

「な、何を…」

「だけど…だからこそ、知りたい。君のその行為は、本当に無償のものだったのか…。そして」

幾多は、浩也を見つめ、

「人でなくなった今も…同じことができるのか?知りたいんだよ」

にやりと笑った。

「君の本質を」

「何を言っているだ?」

幾多の言葉の意味がわからず、苛立つ気持ちが、少し飽和状態であった魔力を外に放出させた。

その次の瞬間、その魔力を感知して、幾多を守るように2人の間に現れたものがいた。

「え」

目を見開く浩也の首筋に、蹴りが叩き込まれた。

吹っ飛ぶことはなかったが、全身から炎が噴き出した。

「そんな…どうして…」