輝達のことは気になったが…自分が戻っても戦力にならないことは知っていた。

その気になれば、輝も自分よりは強い。

「ダ、ダメージがとれるまで、あの中でも休むか」

洞窟まで歩こうとしたが、足が痛み…思わず顔をしかめた。

「こ、これしきのことで…」

高坂はぬかるんだ地面に足をとられながらも、ふらつきながら歩き出した。

何とか洞窟の中に入り、入口近くで腰を下ろした瞬間、すべての力が抜けた。

「なんて…弱い体だ」

高坂は、泣きたくなってきた。

普段は強がっているが、自分の体の弱さが許せなかった。

「森田部長から受け継いだ…情報倶楽部部長の名を汚す訳には…」

話すのも辛くなってきた高坂が黙り込むと、耳に何かの音が飛び込んできた。

空気を震わすような細かい音に気付いた時、高坂は目を見開いた。

「羽音!?ま、まさか…」

首を、洞窟の奥に向けた。暗くて何も見えないが、無数の何かが蠢いている気配がした。

「ここは、魔物の巣か!?」

闇に慣れてきた目が、そこにいる魔物の姿を認識し出した。

人の大きさはある羽蟻の群れ。

「こんな害虫が…いつのまに…。二年前にはいなかったはずだ」

この島を、二年間野ばらしにしているうちに、このような魔物が発生したのであろう。

「ち、畜生」

細かく動いているのは、羽だけではなかった。

鋭い口先が裂け、細かく振動していた。あきらかに、肉を切る為にある。

「フッ」

高坂は、笑った。そして、何とか力を込め、立ち上がった。

「こいつらを出す訳にはいかない。上には、輝達がいる」

高坂は拳をつくると、魔物達を睨み付けた。

人間程の大きさがある為、飛んだとしても、洞窟の広さを考えると、一斉には飛び出せない。

「この中で、カタをつける!」

高坂は、ここで死ぬ気になっていた。

「どんなことをしてでも、外には出さん!」