数秒後、体長20メートルはある巨大な鯰に似た魔物が、海面まで浮かんできた。

ショック死した訳ではなかった。

鯰の腹を突き破り、回転する二つの物体が姿を見せると、空の彼方に消えた。

「や、やはり…」

ティアナは、バイクを発車させた。

ハンドルを握る手が、重い。

モード・チェンジの連続使用は、ティアナの体力をほとんど奪っていた。

「モード・チェンジを使う為には…もっと鍛えなければならない」

ティアナはバイクを自動操縦に切り替えると、全身の力を抜いた。

自分でもわかっていた。

人の身では、過ぎた能力だと…。

(だけど…いずれ…この力を使いこなせる戦士が現れるかもしれない)

その時まで、自分は生きなければならない。

モード・チェンジの実験体として。

ティアナはそう…思っていた。

その時は、自らの娘のことなど想像もしていなかった。

ただ…人類の未来の為。

ティアナは、その為の布石になることを誓っていた。

七歳の頃からだ。

頭が良かったティアナは、自らの理想が実現不可能だと知っていた。

二つの要因で。

まずは、人間の種としての限界。

先程述べたように、人間の内蔵は鍛えられない。つまり、肉体の限界。

それと、もうひとつは…人は特別な人間を認めない。

今は、もてはやされるだろう。

しかし、人でありながら…魔神を倒す力を得た時、人は否定するだろう。その力を恐れ…いずれは、人間の輪から外される。

(人は…脆く…弱い)

八歳で大学レベルを軽く越えたティアナを、畏怖の目で見る人間を知っていた。

(だけど…)

ティアナはハンドルを握った。

(だからこそ…)

自動操縦を切り、アクセルを吹かす。

(守らなければならない)


幼き日…ティアナは選択した。

人を嫌うではなく、人を守ると。

その為に、あたしはいるんだと…。

そう決めた限りは…。

(行くぞ!)

ティアナを乗せたバイクは陸地に向けて、海面を真っ直ぐに疾走した。