「か、神よりも恐ろしい…存在?」

黒谷は顎をさすりながら、きいた。


「お前に、こたえる義務はない」

腕を組んだデスパラードの瞳が、赤く輝いた。


――トントン。

その時、外から扉を叩く音がした。

「理事長?」

理事長室の前に立つのは、相原理香子である。

「チッ」

その声に舌打ちすると、デスパラードは消えた。

ほおっと胸を撫で下ろすと、黒谷は扉に向かって、声をかけた。

「どうぞ」

「失礼します」

扉を開け、一礼した理香子に背を向けると、机の向こうに戻った。

「頼まれていました。全生徒のアンケート用紙の回収が終わりましたので」

書類の束を抱えていた理香子は、机の上に置いた。

「ごめんなさいね。本当は、生徒会の仕事なのに」

黒谷の言葉に、理香子は笑顔をつくった。

「大丈夫ですよ。これくらい」

スタイルはモデル並み、そして佇まいは至ってクール。それなのに、話かけると誰でも気さくに接する理香子は、密かに姫と呼ばれ、男女とわず人気があった。

確かに、こういう仕事は向いてるかもしれない。

黒谷も自然と笑顔になっていた。

理香子と話していると、先程の恐怖を忘れてしまう。


「それに…生徒会長は、忙しいみたいですし…。詳しくは知りませんけど」

理香子は、首を捻った。

生徒会長である九鬼が、月影の1人であることを、理香子は知らない。

そして、理香子の正体を彼女達は知らない。


「では、失礼しました」

頭を下げ、理事長室ら出ていこうとする理香子を、黒谷は呼び止めた。

「相原さん」

「はい」

扉のノブを掴んだ理香子は、振り返った。

その屈託のない笑顔に、黒谷は息を飲んだ。

すぐに、言葉がでなかった。

「?」

理香子は首を傾げた。