これでも抜く力をも考慮し、闇雲に叩いているように見えて、繊細に拳を繰り出していたのだ。

しかし、人間のあらゆる物理的攻撃に、傷一つもつかないと言われる騎士団長の肉体を連打することは、ジャスティンの拳にダメージを与え続けていた。

(まだ蹴りがある)

傷だらけになり、血を流し始めた拳の感覚を確かめながら、ジャスティンは構え直した。

「フフ…フハハハ!」

ギラは立ち上がることなく、笑いだした。

「!?」

ジャスティンは、そんなギラから殺気がなくなっていることに気付いた。

ひとしきり笑った後、ギラは空を見上げながら、言葉を発した。

「強くなったな…。人間とは、ここまで強くなるものなのか…」

ギラはそこまで言うと、目を瞑り、

「我々の負…」

勝敗を認めようとした。

しかし、その時、天から落ちてきた雷が、ギラの言葉をかき消した。

「我々騎士団長に、負けはない」

「!?」

ギラの前に落ちた雷に、ジャスティンは目を見開きながらも、拳を握り締めた。

「な!な、なぜ…お前がここにいる」

ギラは思わず、上半身を起き上がらせた。

「フン」

2人の間に現れたのは、サラだった。

「サラか…」

ジャスティンは敢えて、笑って見せた。

「サラ!」

ギラの叫びに、サラはジャスティンを見つめながら、口を開いた。

「すべての人間が、こやつのレベルまで到達することはない。こやつは、特別なのだ。たった1人で、人間を判断するとはな」

「そうかな?」

ジャスティンはサラの登場で、強張ってしまった筋肉をほぐす為に、全身の力を抜いた。

「うん?」

サラは、目を細めた。

「人間は、ここまで来るよ。1人でも到達した者がいるならな。それを指標にしてな!」

ジャスティンはサラを睨み付け、

「人間をなめるな」

低い声で怒りを伝えた。

「フン」

ジャスティンの言葉に、サラは鼻を鳴らし、

「貴様はなめていない!」

赤毛を逆立て、

「なめているのは、貴様の方だろうが!」

怒りを露にした。

「!?」