軍舎の石畳の階段を踏みしめる。
外套を着ているとはいえ、真冬の夕刻だ。

寒さは回避できずエイダは自らを抱くように腕を回した。


父はエイダの半歩後ろを歩いていて、エイダの足音に遅れてもうひとつの足音が廊下に響く。


「私は、父様を疎んでいました」


冷たい空気が頬を撫でる中、エイダは唐突に話し始めた。


「あれだけ仲が良く、毎日幸せそうに暮らしていた父様と母さんなのに。
父様は葬儀に参列せず、悲しむ素振りさえ見せずにいた。私はそれが許せなかった。
それが母さんに対する裏切りに思えて仕方がなかった」


決して後ろを見ずに言葉を連ねる。
父がどの様な顔をしているかなど、エイダには分からない。