「おい、どうしたんだ」


はっとして前を見ると眉間に皺を深く刻んだ父がいた。
そこでエイダは自分が感傷に浸っていたことに気がついた。


「父様は母さんが嫌いでしたか?」


この質問がずるいと分かっていても、今はこうするのが一番早い。
父の胸の内を聞き出すには母の話を持ちかけるのが妥当なのだ。


訊いた瞬間、父は視線をさまよわせ唇を噛んだ。
これから何を言わんとしているのか、エイダには分かっている。


「嫌いなどではない」


暫くしてから返ってきた言葉。それは苦虫をかみつぶしたような物言いだった。


「では何故母の葬儀に来なかったのですか」


自分でも知らないうちに責めるような口調になっていた。

父への怒りはもう収まったはずなのに、どうやら心の奥ではまだ父を許せていない自分が居たようだ。