母の葬儀が執り行われてから、幾日が過ぎた。

日常は何ら変わっていないのに、胸には明らかに残る穴、焦燥感。
足りない。


この日、エイダは朝早くから身支度をしていた。

まだ人が活動するにはいくらか早いこの刻。

エイダは厚手の外套を着込み、軍が秘密裏に所持する戸口へと向かった。


「エイダか」


辺り一面を白く染めている雪を踏みしめると、しゃりしゃり軽快な音が鳴り響いた。

それに気がついた男がエイダの名を呼びながら振り返る。


返事は必要なかった。
無言で男を見て、その隣に身をおく。


「親父のこと、責めるなよ」


並んだ瞬間に横から降ってくる、少し戸惑ったような声。

いつ聞いても安心する、兄であるダニエルの優しい声音。


「分かってる」


父が悪くないことなど、分かっている。

ただ悔しいだけなのだ。