「さてと~そろそろ行ってくるか」

コーヒーを飲み終え、お気に入りのマグカップを静かに置くと席を立った。

「……廉」

「?」

「ううん、なんでもない。行ってらっしゃい」

藍は何か聞きたそうな顔を俺に向けた。


どうせ今朝のことだろう。


あれからずっと自分自身、気になってなんとなく上の空だったしな。
五年も一緒に居ればな……お前の表情だけで言いたいことなんてお見通しだって。

彼女が軽く振った手も俺には言葉と同じ効力を感じていた。





「今日も一日長かったな」
最後の配達を無事に終え、トランクを閉めるといつもの愛車に乗り込もうとした時だった。

「待て~っ!!このヤロウ!!」
男の罵声と共に、複数の足音が聞こえる。

どうやらその男は女を追い掛けているようだ。
しかもこっちに向かってくるではないか。

目が合うと女は、

「助けて下さい!!」

俺を楯にするように背後に隠れたのだった。

「どけ!その女をこっちに渡せ」
俺の前に立ちはだかる男は息を切らせていた。
表情からは怒りの感情をひしひしと感じる。

……ったく。
こっちは事情も呑み込めてねぇってのに。
まぁ、大低この手のパターンは――、