頭の中を小さな自分がフラッシュバックする。見たことのある風景。


─お父さん!お父さん!


「…まさかまた来ることになるとは思っていなかったな」



青龍館ホテル。
父が建てたそのホテルで僕は幼少期を過ごした。

毎日裏のガーデンで鬼ごっこをしたり、裏山でかくれんぼしたり。どろんこになって怒られたりしたな。



「…あの頃は本当に楽し…か………え?」



何で?

鬼ごっこもかくれんぼも相手がいなきゃできない遊びだ。でもあの頃あのホテルにいたのは僕と父と父を殺したあいつら4人、そして他数人の使用人達だけだった。

同じくらいの年代の子なんていなかったはずなのに。


『リュウクン』


思い出せない。
そこだけぼやけていて顔がわからない。

君は誰?
僕の他には
   ダ レ ガ イ タ ?






『…────』

「っ」



そのとき車内のアナウンスでふと我に返り、降りるために荷物をまとめた。

電車から降りて改札口を出る。



「…何でいまさら」



溜め息をついて僕は気にしないようにホテルへと向かった。