朝が来る。



「んーっ」



背伸びをして朝一番に窓を開けると、夏とはいえ避暑地特有の涼しい風が部屋に入ってきた。




「空気が今日も綺麗…」



自然と口元が弧をえがく。




コンコン

「起きたかい?」

「あ、はい!いま行きます」



部屋のノックに急いで部屋を出ると穏やかな笑みを浮かべた男性の姿が目に入った。




「おはようございます。雨洞さん」

「おはよう優衣ちゃん」



彼のあとを追って階段を降りてカフェテラスへと足を運ぶ。
席に座ると雨洞さんが朝食を持ってきてくれた。



「あ、すみません」

「気にしなくていいよ」



お礼を言って洋食を口にしていると向かい側に座った雨洞さんがゆっくり口を開いた。



「今度このホテルに私の知人が来て法事みたいな事をすることになった」

「法事ですか?」

「ん。天草匠って言ってね。このホテルの設計図を書いた人なんだ」



天草、匠。



「どうしてその人は亡くなってしまったんですか?」

「…自殺したんだ」

「…そうですか」



自殺。
何故かこの言葉に引っ掛かるものを感じた。

どうして?
初めて聞いた名前なのに、何故か胸がもやもやする。



「どうしたんだい?」

「え?あ、ごめんなさい。ちょっとボーッとしてました。まだ寝ぼけてるのかも」



いや、きっと気のせいだ。