「いや…あの、あたし…」
「ホントにいいんですよ」
男は笑いながら、ヒョイっと軽くヨットへと乗り込むと、鍵を開け始めた。
「…でも…あたしもう…」
と言いかけた頃には
男は既に船内へと姿を消していた。
私は立ち上がって帰るそぶりをしたものの、オロオロするばかりだった。
するとすぐに男はデッキへと戻って来て
「よかったら、どうぞ」
にこやかな顔で缶コーヒーを差し出した。
「こんなものしか今なくて。後は……酒ばっかりです!」
苦笑いをし、肩をすくめると
“さぁ”というように、更に缶コーヒーを私の目の前へと差し出した。
(参ったなぁ…あたし缶コーヒー苦手なんだよね…)
私の困ったような笑い顔を
男は遠慮と取ったのだろう。
「遠慮しないで飲んでって下さい」
「…どうも……
ありがとうございます」
船内へと階段を下りる男の背中に礼を言うと
私はゆっくりとデッキの椅子に腰を下ろした。


