生暖かい風が肌の上を滑って行く…


体を起こし、太陽の傾きを確認すると

私はまた目を閉じた。



耳だけを澄まし、神経を集中させる…



…ポチャン…ポチャン…


波が船縁へと打ち付けられる度に

不規則に、また静かに音を鳴らしていた。

それに伴い、ヨットも同じように揺れる……



自然に身を任せ、体を解放していると

不満だらけではち切れそうになっていた私の心は

穏やかさを取り戻していった。





ふと、足音が聞こえたような気がして、後ろを振り返ると

若い男が戸惑いの表情を浮かべて、ヨットの脇に立っていた。



「あっ!すみません…あ、あの…ごめんなさい……
すぐ降りますから!」


私は大層恐縮し、荷物を持って立ち上がった。



「いえ、どうぞそのままで…構いませんよ。
僕は中に忘れ物取りに来ただけですから」


男はにこやかな顔で、鍵のついたプラスチックの板の方を指差した。