「今の時期に!?」

「一年生が勧誘したのかな?」

「楽器は何するんだろ?」

そんな噂をしていると、

「楓、ちょっと。」

顧問に呼ばれた。

 え?まさか?

「フルートしたいそうだ。教えてやってくれ。」

「え?あ、はい。」

時期はずれな一人の入部希望者は、予期せずフルートに入った。

 それにしても、フルートは定員一人のはずじゃあ?

 一応せっかく入ってくれたから、希望を聞いておこうということなのか?

その予想は今後確信に変わる。


「あの、よろしくお願いします。」

考えごとでボーっとしている私に彼女は挨拶をし、ハッと我に帰った。

「あっ、よろしく。えっと、私は2年でフルートやってる金城楓っていいます。」

「金城…楓先輩。」

彼女は覚えるように反復する。

「うん、下の名前でいいよ。で、あなたのお名前は?」

「あ、はい!私は1年3組、幸地 貴子(コウチ タカコ)です。」

天然パーマの長い髪を一つに束ね、メガネをかけた彼女。

 真面目そうだな。

実際、彼女は真面目でしっかりしていた。

教える方としては不真面目な子より、真面目である方が教えやすい。


「貴子ちゃんね。じゃあ、こっちが楽器庫兼部室だから、入って。」


いくつかフルートを出し、貴子ちゃんが吹きやすいと思ったものをチョイスする。

実際、そんな簡単に音は出ないので、なんとなくで選ぶのだが。


「これが今日からあなたの楽器ね。大切に使ってね。
じゃあ、楽器持って第1音楽室に行こう。」

「はい。」

彼女も緊張してたと思うが、実際教える方も少し緊張する。

 緊張というより、なんかギクシャクするな。
 初対面だからか?

気を取り直して第1音楽室のドアを開けた。