「まだ、待つかもしれないけど楽器温めといて。だって。後ろに伝えて。」
大きな声は出せないので、舞台へ続く廊下で縦に並んだ私達は伝言ゲームみたいに小声で指示を回す。
はいはい、温めるね。わかってますよ。こうでしょ。
楽器の吹き口から音が鳴らない程度に息を吐く。
前回は意味がわからなかったけど、成長した今回は余裕綽々です。
「…あまり温まらないね。」
「うん、冷房強すぎてすぐ冷たくなる。」
へ?あ、本当だ。
清花先輩達の言葉に楽器全体が温まらないことに気づく。
「どうしよう。大丈夫かな?」
さっきの余裕から一変、不安になる私。
「私、先輩に聞いてみる!」
みんなの不安を察して、清花先輩が部長の所に行った。
清花先輩と一緒に聡美先輩が来た。
「他の学校も同じ条件だから、大丈夫だよ。
あと、唾が溜まらないように温めるのは直前だけでいいから。今はやらないようにしよう。」
「はい。」
先輩の気づかいや声から優しさを感じる。
なんか緊張してきたかも。
ポケットのプロミスリングに手をあてた。
前の扉が開けられた。
「ここから先は静かにね。さ、中へどうぞ。」
舞台袖。
たくさんの裏方さんが作業をしているのを避けながら進む。
色々な機器にぶつかったり、コードに足を引っ掛けないように用心しながら。
舞台では演奏が行われようとしている。



