たまに遊びのようなものも入れてくる。


「指揮棒をよく見ろよ。」


これは、楽譜にばかり目を向けて指揮や合図などを見逃してしまいがちになる私達がそうならないための練習。


先生がタクトを上げるとサッと楽器を上げ、下ろすと楽器を下ろす。


赤あげて白下げないで…みたいなものだ。

タクトを振り音を出そうとするかと思えば、ピタリと止まる。


プッ、「あ、」


耐えきれず音をだしたりすると笑いが起こる。


そうかと思うとピタッと止まったタクトがいきなり振られたりして、フェイントにみなが慌てる。


「ふっ、まだまだだな。」


逆もあったりして、タクトが振られてるのに誰も気づかなくてシーンとしたり。

先生が一人でずっこけているのを見てまた笑ったりした。


「…油断するなよ。」

「先生、今一人でむなしかったっすね。」

「…ドラムだけ。」

「え!?いじめっす!」


譜面台にペンを起き、楽譜には細かく指示されたことが書き込まれていく。


それは、先輩に指示されて「先生や先輩のアドバイスをわすれないように」とやり始めたのだが、


「一回、今まで言ったことを無視して楽譜通りにやってみよう」

と言った。


楽譜にはもともと強弱やリズム、細かなニュアンスを表した記号が所狭しと並べられている。


「楽譜どおりに」とは本来音符を追うだけでなく、その細かな感覚も表現しなくてはならない。



「うん…」

演奏後、何かを考えるようにつぶやくと、


「フルート、ピアノのところは、はじめからフォルテで。」


「それから、トロンボーン…」



と修正を加えていった。


「今言ったところ以外は楽譜どおりにやる。」


「はい。」



今になってあれこれ変えるとはどういう考えか?


ド素人の私にはわかりかねたが、この時はもう先生への音楽の信頼があったので、さほど気に止めなかった。