ユリは、一呼吸置いてから。

「ナナの家ってね。父子家庭なの。」

そう切り出した。

「ナナのお母さんはとても病弱で、ナナを産むのと同時に、自分の命を落としてしまって・・・。ナナのお母さんは、自分の命が助からないことを知りながら、ナナに命を与えたのね。そしてナナが小学生のときに、お母さんからナナに宛てた手紙が渡されたって。」

ユリは続ける。

「その手紙の中で、お母さんがナナが産まれて来るのを、どんなに楽しみにしていたのかということ、そしてこの手紙を読んでいるということは、自分がこの世にはいないということだから、それを申し訳なく思うということを、ナナに伝えたらしいの。」

ユリはそう言って、短く息を吐いた。

「そして、お母さんからの最後のお願いとして、『お母さんの代わりとして、お父さんのことをよろしくね』って、書いてあったって。」

「・・・それって、まさか?。」

僕が言うと、ユリは小さく頷いた。

「ナナはお母さん似みたい。中学に入学して間もない頃。お父さんが仕事から、酔って帰って来たときに・・・。」

ユリは握りしめた拳で、ベンチを叩いた。