天使と呼ばれたその声を


「待ちなさい。ちゃんと考えているのか?約束まで後少しだからな」


一瞬、ソラの瞳が哀しさに陰った。自由気ままで気高い猫のソラが、捨てられた子犬みたいな哀しい瞳をしたのを私は見逃さなかった。理由が分からないけど、あのソラが動揺する位の事。先生も、神妙な面持ちでそう言うから、自分が辛いからって、ソラが何不自由なく幸せ者だって思った私はすごく最低な人間だと思う。

誰にだって、悩みがある。
それには大きいも小さいもなくて、その人にとっては果てしなく辛い事だから、簡単に“そんな事で?”なんて言ってはいけない。悩みのスケールを比べてはいけない。理由はなんであれ、悩んでいる事には変わりはないのだから…。


何も答えないで立ち去るソラの背中を見つめながら小さく溜息を吐いた先生は、仕切り直して私に再び視線を戻した。


「お母さんなんだけどね、実家の人が迎えに来て帰ったんだよ…幸い傷も浅くてね」