Anniversary





 そう言って先輩が私を連れてきてくれたのは……今度は地元の、私のウチの近くだった。

 とはいえ、ウチから駅へ行く方面とは反対方向だし、ちょっと前まで通ってた中学校とも方向が違うから……私は来たことが無かったんだけど。

 ――そこは神社だった。

 先輩が毎朝通学する途中、「近道するんで通り抜けてる」場所、なんだそうだ。

「ここ見つけてから、どうしても桃花に見せたかったんや」

 そして神社の裏手…その最も端の一角で自転車を停めた先輩の後ろから、顔を覗かせた私の視界に飛び込んできたもの。


 それは小さな、お稲荷様のお社(やしろ)と。

 その両脇に立つ、―――匂うほどに鮮やかな濃い桃色の花を、広げた枝が見えない…どころか枝垂(しだ)れるくらい一杯に咲かせた、見事なまでの対(つい)なる双樹。


「これ……桃の花……?」


 静かな…それでいて陽当たりの良い、そんな場所で。

 あまりにも小さな私の呟きは、思いのほかシンとした空気に良く響き、そして光の中で、融けて消えた。

「そう、桃の花。――桃花の花や」

 応えてくれた先輩の声が、――何故か遠くの方から聞こえたような……そんな感じがした。


(“私”の…花……?)


 まるでその小さな社全体を照らし出すように、周囲の木々の隙間から、傾きかけた陽光が降り注いでいる。

 桃の樹の見事さと相まって、その光景があまりにも幻想的で……涙が出るくらい、まるで在り得ないほどの美しさをもって、私の瞳に焼き付いた。

 本当に感動したら言葉なんて何の意味も無くなる、ということを……ただ絶句していただけの自分に気付いて初めて、私はそれを理解する。

 自分が今どこに立っているのか、それさえも判らなくなるくらいの感動。

 私、ここに居ていいのかな…? ――そう思ってしまうくらい、ここは神聖な場所でしか、無く、て……。


 言葉を出せないかわりに……私の頬を、涙が伝った。