「おい、小泉が走るぞ!?」
その葛城の声に、俺たちの視線が一斉にグラウンドのスタート地点に向いた。
そう、ヤツらにとってカンジンなのは、このレース。
小泉と三樹本を接触させないことが、そもそもの目的なのだから。
天文部におけるコイツらの悪事に通じている碓氷センセーも、ここでようやくコイツらが三樹本を拘束している意図を察したらしく……ミョーに納得したような表情でトラックを走る小泉を眺めつつ、「ナルホド、そういうことか」と、ニヤリとした笑みを作った。
「でも、アイツの三樹本センサーはスサマジイからな。こんなトコに隠しておくくらいじゃー、イミねえだろ?」
どこに居たって三樹本だけを目指して突っ走ってくる小泉の習性については……天文部の人間なら既に周知の事実である。
しかし、そこはそれ、コイツらが考えていないハズも無く。
「だから見つかっても簡単に連れていかれないよう、こうしてワザワザ縛ってんじゃんか」
…しかも切らなきゃ解けないくらいにキツイ結び目つくりやがってな。
確かに、たとえ小泉がココに三樹本が居ると勘付いたトコロで、これでは制限時間内にゴールまで連れていけないに違いない。
そうこうしている間に、いちばんビリでスタートを切っていた小泉は、いちばん最後に“指令”の書かれた紙を拾い上げ……その場で一瞬、硬直した。
――そして……、
『おおーっと、第3コースC黄色チーム選手、1人だけ客席とは逆に走り始めました!』
放送席の実況係が、そこで忠実に実況中継を電波に乗せる。
その言葉通り……小泉は1人だけ、他の走者と違い、生徒の居る応援席や一般客の居る観客席のある方向とは逆へ向けて走っていた。
普通、この競技で指定された人物を探すのに、皆が皆、まず客席の方向を目指してゆくのにも拘わらず、だ。
しかも彼女は、明らかに“コチラ”を目指して走ってくる。

