「―――みっきー先輩ッッ!!」


 半ば叫ぶような私の声で呼び止められ、前を歩いていた黒い学ランの背中が振り返った。

「よーう桃花(ももか)チャン。何や、どうしたん?」

 そんな言葉と共に向けられる、ニッコリとした素敵な笑顔。

「わざわざお別れの言葉でも言いに来てくれたんかー?」

「いや、あの、えっと……!!」

 ――確かに。今日は1つ上の先輩方の卒業式。

『お別れの言葉』とか云う以前に、まずは「本日はおめでとうございます」くらい、言うべきだろう。

 だが、胸中に“一大決心”を抱いた今の私のアタマの中では、そんな当然のジョーシキなどは、存在していなかった。

「先輩にっ、お願いがあるんですッッ!!」

 立ち止まってくれた先輩の前までこけつまろびつのイキオイでもって駆け寄った私は、その場で急停止するや否や、まるで噛み付くかの如く、そう、言っていた――というより、もはや“叫んで”いた。


「みっきー先輩の“第2ボタン”っ…! 私に、下さいッッ!!」


「ああ、ええよ」


「―――はいっ…?」


 あまりにアッサリと返されたその返答に……勢い余ってボーゼンと呆けてマヌケ面で立ち尽くす、そんな私の目の前で。

 先輩は、胸の第2ボタンをホントにいともアッサリと学ランから引き千切り、「ホレ」と、握りこぶしごと差し出してくれる。

「なんや、いらへんの?」

 そのボタンを受け取ることも出来ないくらいに相変わらず呆けたカオで立ち尽くすだけの私に向かい、軽く首を傾(かし)げつつ、先輩が訊く。不思議そうな表情をして。

 まるで、私が何でこんなにも呆けているのか…それが全ッッ然、解っていないみたいな……そんな表情。

「あ…あの、先輩……?」
 そのキョトンとした表情を見上げて……恐る恐る、私は問うた。

「私が言った言葉のイミ……ちゃんと、わかってます……?」

「だから、オレのボタンが欲しいんやろ?」

「『先輩のこと好きです』って、言ってるんですが……」

「ああ、ホンマ? なら、付き合おかー?」

「―――はいぃーッ……!?」