直也が教室から出て5分後

洋介が教室に入って来た。


「洋介…もう終わったの?」

「俺だけな。早く帰ろう。」

あたしは洋介の言葉にうなずき無言で後を追った。

バイクの後ろに乗った。
洋介が

「今日はいつもより喋んねぇな。」と言った。

今のあたしは、洋介にいつ言えば良いのかを考える事でいっぱいだった。

洋介は帰り道にある海の浜辺に突然バイクを止めた。


「…洋介?」


洋介は黙ってバイクから降りて、歩いて行ってしまった。

あたしも洋介に付いて行った。

洋介は防波堤に座って
どこか遠くを見ていた。
洋介の隣りに座り、話しかけても洋介はただ遠くを見つめたままだった。


急に雨が降りだした。

「洋介…雨降ってきたよ。」

洋介は振り向いてくれない。


「洋介…あのね…。」


洋介は、やっとあたしの方を向いてくれた。

「何?」


「あのね…」


あたしはその後の言葉が出て来なかった。

見つめあったまま30分の沈黙を破ったのは洋介だった。


「…もう俺と関わらないって言いたいんだろ?」


「なんで…」


「さっき教室で愛梨が直也と話してるの聞いちゃったからさ。」


あたしの目からは涙が溢れた。


「あたし…洋介の事、すごく大切なの。直也と同じ位好きなのに…
何がいけないの?
あたし洋介と関わらないなんて無理だよ…」

洋介はあたしを抱き締めた。

「洋介…」


ずっと一緒にいたのに、ただ抱き締められただけで
洋介を男の人だと改めて意識した。

「洋介…離して…」


「離したくない。好きだ…愛梨。」

洋介の顔が近づいてきてキスをしようとしてきた。

拒む事だってできたはずなのに
あたしはただ洋介を受け入れた。

洋介との秘密のキスは甘くて
幸せを感じた。

雨が止み、夕日は海を照らしてキレイなオレンジ色に染めた。





この日から
洋介とあたしの
誰にも言えない
関係が始まった。