「今見た事は全て忘れて下さい…僕に遭遇した事も、ここでこうして催眠をかけられた事も…今夜この場で目にした事、耳にした事は全て記憶から消去して下さい…何も危害は加えません…ただ、これは忘れた方が貴女の為なんです…」

僕は機体に備え付けられたベッドに彼女を寝かせ、記憶消去の催眠をかけた上で再び車へと戻した。

肉体には一切傷を付けていない。

ただ、僕の機体に遭遇してしまった事を記憶から消しただけ。

…僕の機体は高速での飛行が可能で、本来ならば肉眼で捉える事なんて不可能。

だけどごく稀に運悪く、僕の機体に遭遇してしまう人もいる。

彼女のように。

そんな時はこうして記憶を消去していた。

一応『決まり事』で、この惑星の人々に、僕らの存在は明かしちゃいけない事になっているから。

…こういう経験をした人達は、この出来事を『アブダクション(誘拐)』と呼んでいるんだそうだ。