そんな時・・・。



ドクンッ!



心臓が飛び出そうなくらいの衝撃を受けて、背筋がぞっとした。


息をする事を忘れてしまうほど、体が固まって動けない。


「嘘・・・、なんで・・・。」


目前の人の群れの中、携帯を耳に当て、ペコペコ頭を下げて立ち止まっている一人の中高年の男が、私を混乱させていた。


荒れていたあの頃とは違って、スーツに身を包み、しゃんとしているその男性は、

10年の月日と共に若干老けているけど、あの頃の面影も残っている。


10年間、忘れたくても忘れる事が出来なかったあの顔が、私の、ほんの数メートル先にいた。



「お・・・とう・・・さん・・・。」



蚊の鳴くような、自分でも分かるくらい震えた声で呟いた。