教室に戻ると、末木がもう座っていた。
末木があたしより先に座ってるなんて珍しい。

「ん?なに?」
末木があたしの視線に気づいて、にっと笑った。
「・・・別に。」
末木は顔も性格も悪くない・・・というか良い方で
女子から結構モテてたりする。

普通の子ならこうゆう風に笑われたらキュンとするのかな、
なんて思いながらあたしは末木から視線を外した。



「ねえ。椎名さん、さっき屋上にいたしょ?」
「居たけど?」
・・・なんで知ってるんだろう。
あたしは不審そうに末木を見た。
「・・・え?あ、俺ストーカーじゃないよ?」
あたしと目が合った末木は手をブンブン振って、否定した。
「ははっ。だよね、隣の席なのにストーカーって変だし。」
あたしは焦って否定する末木を見て吹き出した。
その横で目を丸くして驚く末木。

「・・・ん?なに?」
「・・・いや。椎名さん笑ってるの初めて見た。」
丸い目のまま、末木はつぶやいた。
そういえば・・・高校に入ってから笑うこと無かった。
それ以前にクラスメイトと話してなかったな。
―末木に言われて初めて気づいた。
そして、末木があまりにも驚くので
あたしは急に恥ずかしくなって俯いた。

「椎名さん、笑ってた方が可愛いよ。」
「えっ?」
末木の言葉に驚いて顔を上げると
末木は、あたしを真っ直ぐに見てさっきと
同じ顔でにっと笑った。

さっきは何も感じなかった
末木の笑顔が少しだけ温かく思えた。
なによりあたしの心が
―ドキン、と音をたてたのが聞こえた・・・気がした。