「はい、消しゴム。椎名さんのでしょ?」
数学の授業中、あやが見当たらない
消しゴムを探していると通路を挟んで
隣に座っている末木が手を出してきた。

「・・・ありがと。」
あやは、無愛想に末木の手から
消しゴムを受け取った。


―これが2人の初めての会話だった―



「あや、屋上行かない?」
お昼になると、美央がお弁当を持ってやってきた。
「・・・屋上?いいけど寒くない?」
「だからいいんじゃん!きっと人いないよ」
そしてあたしは半ば強引に屋上に連れて行かれた。



「・・・寒くない?」
「これくらい、大丈夫でしょ」
屋上のドアを開けた途端、
済んだ風が髪を撫でた。
もう10月だったし、屋上には誰もいなかった。
「てか空、青だよ、青!」
美央が小学生みたいにはしゃぐ。
あたしも美央につられて上を向くと
雲ひとつない、青い空が広がっていた。
「・・・すごっ」
あたしは大の字になって寝そべった。

「全然、届かないや」
あたしは青い空に手を伸ばした。
届きそうもない空を見てふっと
笑ってから目を閉じた。
この日の空は、いつもより高く思えた。


・・・冬が近づいていた―――。