ベッドの上にはやっぱり梓がいる。


静かに、寝ている。


あたしはそれを見ると、先を歩くもう1人の梓を追いかけた。


…と、言ってもあたしは今足が早く歩けない。


ピョコっと跳ねて急ぐけど、なんだか今日の梓は足が早い。


どんどん遠ざかるその背中。


『待って、梓…』


あたしのその声に振り返った彼は「あぁ、ごめん」と一言言うと戻ってきた。


そして膝を少し曲げて「ほら」と肩を貸してくれる。


…やっぱり、優しい。


今、“梓”が2人いる。

どちらが本物かは分からない。


でもこんな優しさに触れるとなんだかますますどっちが梓か分からなくなる。