次の瞬間には、あたしの目の前に彼はいなかった。


サアッ。


春の海の少し強い風があたしの幸せを奪い去ったみたいに。


あたしの体は風に命を奪われたように、ただの置物みたいに動かない。



後ろから聞こえる彼の足音が遠くなっていく。


『梓・・・』



残された力を振り絞って名前を呼んだけど。


あたしの小さい声は君の耳に届いたの?




足音が止まる事はなかった。





涙なんて、出なかったよ。