翔が待つこと20分。美月が改札口に現れた。

「よし!今日こそは!」そう小さいく気合を入れると、翔は帽子を深くかぶり、美月の後をついて改札口を通った。

渋谷始発のその電車は、まるで翔と美月を待っていたかのように、ドアを開けた。美月は電車の中を見ながらホームを歩いていった。

美月が乗った車両を見届けた翔は、その一つ手前の車両に乗った。そして、車内を移動してきたふりをして、美月の乗った車両へ移動した。


「あれ~先生♪」翔はわざと驚いたように美月に声をかけた。

「ええ~」美月の大きな目がさらに大きくなった。

「ビックリした。同じ方向なんだ。えっと・・・B組の高柳君よね。」

「名前覚えてくれていたんですか~嬉しいなあ」翔は無邪気に話しかけた。

「覚えているよ。人の名前覚えるのがちょっと苦手だけど、高柳君って目立つし、うちのクラスの子も話題にしていたから^^]

「何言われているんだろう。おれ。でも先生、名前覚えるのが苦手ってやばくない?」

「ふふ^^」


電車が大学前に止まる。学校帰りの大学生がたくさん乗ってきて、美月が少しよろけて翔にぶつかった。

「ゴ、ゴメンナサイ」

「こっちにきたほうがいいよ。」

翔が美月を人と人の隙間に誘導した。

「ありがとう。」

「でも、先生ちっちゃい!身長いくつ?」

「153cmよ。高柳君こそ大きいね。いくつなの?」

「182cm、先生おれのわきの下にはいっちゃうなあ。」

美月は本当だというような顔をして笑った。そんな美月を見て翔も笑った。

抱きしめようと思えば抱きしめられる距離に美月がいる。翔は抱きしめたい気持ちをひっしに抑えて、無邪気な年下の生徒を演じていた。