犬吠峠

レッカーを呼ばなきゃ。

そう思って携帯を取り出したけど…圏外なんだ。

山奥とはいえ、圏外になるほどの奥じゃない。

なのに電波が通じない。

仲間達と顔を見合わせている時だった。

…俺達がさっきまで登っていた坂道から、4、5人の男が下ってきたんだ。

農作業で着るような野良着っていうのか?

地味で薄汚れた服を着た、みんな40代50代の中年だった。

日頃から山中を歩き回っているような浅黒い顔、伸び放題の脂性の髪の毛、白髪混じりの無精髭。

どの男も表情はない。

なのに目だけは血走っていて、完全に正気じゃない目だった。

…皆、手に斧や鉈を握り締めていたよ。