ラーラ

 裕次郎さんが休んでいる間は、私は公園で同じ仲間の友達と遊んで、それなりに楽しい日もありましたが裕次郎さんの事を思うと心配で余り遠くへ行く事はありませんでした。

 大都会に出て来て、半年にもならない時の事です。その日は私が初めて体験するそれはそれは寒い日でした。朝からどんよりとした雲におおわれて、みぞれまじりの雨が降っていました。取りあえずその場をしのぐ為、私達は公園を出て人通りの無いビルの谷間で過ごす事にしました。

 いつもの様に裕次郎さんはタバコに火をつけようとしますが、なぜか指が震えて点けられず何回も試みるけど駄目でした。仕方なく、いらだちを抑えるように、やにわにバッグからカップ焼酎を取り出すといっきに飲み干しました。

 しばらくして指の震えが止まると、やがて気持ち良さそうにタバコを吸いました。そして私に朝食をあげると、いつにも増して、いとおしく抱きしめて「ラーラ、ありがとう。いつまでも一緒にいてね」と優しい声で言いました。

 そして私の為にバッグから柔らかいセーターを取りだして、くるんでくれました。裕次郎さんはまるで夢でも見ているように時折、笑顔を浮かべては焼酎をひたすら飲んでいました。悦子さんが亡くなってから久し振りに見る優しい笑顔でした。

 いつしか目が覚めると真夜中になっていました。傍らの裕次郎さんを見ると、寝顔に笑みを浮かべて気持ち良さそうに寝ているように見えましたが、何かおかしいので、顔をなめてみると冷たくて、なめてもなめても起きてくれないのです。私はどうしたらいいのか分からず、ただ寄り添って泣いていました。

 しばらくすると、どんよりとした空から淡い一筋の光が裕次郎さんを差しました。

 一瞬私はたじろいでいると、死んだはずの悦子さんが白っぽい衣を身にまとい淡い光の中を降りて来て裕次郎さんを抱きかかえました。すると、まるで待っていたかのように腕にいだかれた裕次郎さんが顔を上げ「ごめんね」と言うと、悦子さんも「ごめんなさい」と涙を流しながら、ただお互いに「ごめんね」「ごめんなさい」と言うだけでした。