どっかの誰かさんって誰よ!と紅葉がヒステリックに叫んだところで、ようやく樹が止めに入る。
「お二人さん、かなりガン見されてるんで。」
そう諭され、辺りに視線を投げると
ジョギングするおじさんや
買い物帰りのおばちゃん、目を丸くした小学生たちが、こぞってこちらを見ていた。
まるで見てはいけないモノを見てしまったような、不自然な空気が漂っている。
俺が「んんっ、」と咳ばらいをすると、止まっていた時間が再び動き出した。
一方の紅葉は
「ふんっ!」と鼻を鳴らして横断歩道を早歩きで渡り始める。
それを見て、樹はいつもと同じ事を言った。
「どーして毎回喧嘩になる訳?」
ついでにこれでもかってくらい、デカイ溜め息なんかついてくれちゃったりして。
だから、俺もお決まりの返事を返すんだ。
「アイツがいけねぇんだよ。」
「俺からしたらお互い様だと思うけど?」
「はぁ?どこがだよ!俺は全く悪くねぇし!」
「そうゆうところが問題なんでしょ。」
樹の言葉は、腑に落ちなかったけれど面倒なのでそれ以上反論しなかった。
「本当は仲いいくせに。」
そんな声も
北風と共に流しておいた。

