ゆかた祭り初日…その日も月子の客はいなかった。

ヘルプで席に着いていた時、ボーイが呼びに来た。

絵理子の常連が、得意先の社長を連れて来たのだ。

その社長の横に月子はついた。

禿げ頭、脂ぎったマスク、見るからにタヌキの置物が服を着ているよう、その人面タヌキは、もう既にかなり酔っているようだった。

「いらっしゃいませ、月子と申します」

「月ちゃんか?もっと側においで」

と、関西なまりのその人面タヌキは、月子の手首を掴み、自分に密着するよう引き寄せた。

月子に…嫌な予感が走る。

人面タヌキは、いかにも嫌らしい目付きで月子を眺め、水割りをちびちびと舐めるように飲む。


と月子の肩に手を回してきた。

「ゆかたが良う似合うとるやないか、綺麗な顔して、私のタイプや」

と、袂の中に手を滑らせてきた。

「あっ!」

月子は逃げようとした、が、肩に回ったもうひとつの手が力強く、それを許さなかった。

それでも力振り絞り、月子が立ち上がった瞬間、人面タヌキがいきなり手を引っ込めた。

「何や、あんたの肌、えらいザラザラやな、サメ肌かいな?」