兄が月子に近づいた。

ブランコに座った月子の前まで来て、その場にしゃがんだ。

兄の顔の位置が、月子より低かった。

兄は哀しく情けない表情で、月子を見上げる。

「龍子、よく聞いてくれ」

月子は真剣な眼で兄を見返した。

「兄ちゃんはな、今でも親父を認めてはいない、と言うより認めたくはない。
その精神で今まで生きてきた。
これからも、きっと考えは変わらない、と思う。
でもお袋の事は、俺もこの歳になって、少し分かってきた事がある。
一人の男に惚れたって事だ、何を犠牲にしても、あの人は親父を選び、死ぬまで添い遂げた。
お袋にとって…それだけ親父はいい所もあったんだろ…ってね 」

「お兄ちゃん…」

「龍子、お前もか?どうしても、どうしてもあの男でないと駄目なのか?」

月子は、力強く頷いた。

「修二さんでないと…自分を生きれないの。結婚…したいの…」

「……仕方ないな…どんなに止めて反対したところで、お前はもう立派な大人だ、縛りつけて家に置いておく訳にはいかない…」

兄は…肩を落とし落胆した。