月子が喋り続ける。

「お母さんの最後の顔、私…今でも目を瞑ったら、はっきり思い出すよ、口元が笑ってた、穏やかな顔だった…忘れないわ……お父さんを好きになって、自分が不幸だなんて思ってたのかな? もしかして、好きな人の側で幸せ感じ、死んだのかも知れないなって……だって…お母さんから…お父さんの悪口なんて、私聞いた事なかったよ…」

兄は妹の側に寄って来た。

そして、月子の後ろに立ち乗りして、ブランコを漕ぎ始めた。

昔、二人は、こうしてよくブランコの二人乗りをした。

兄は、スピードを上げていった。

二人は、遠い遠い昔に帰った。

「お兄ちゃん、恐い~恐いよ~キャァ~」

恐がるからとスピード緩めると、もっと早くして~とねだる……またスピード上げると、やめて~と叫ぶ。

この繰り返し……飽きる事もなく遊んだ昔。

あれから何年過ぎたのか……どんな生き方しようが、時の進むスピードは皆平等。


兄は徐々に漕ぐスピードを落としていった。

やがてブランコの揺れは止まり、兄が飛び降りた瞬間に、二人は現実、現在に戻った。