店の後始末は終わった。

新しい部屋も借りた。

荷物も運び終え、分譲マンションも、思っていたより高い値で売れたと、業者から連絡が入った。

振り込まれた金額、そっくりそのまま銀行から出金し、月子は原田宅へと向かった。

夕方過ぎの事…何の連絡も無しに着いた原田家は、明かりが点いていた。

インターホンを鳴らす。

「はい」

女の低い声?奥さん?

「あの…三山龍子、いえ月子です」

「………」

ガチャ!ドアホンの受話器が勢いよく置かれた音がした。

暫くしても、誰も出て来ない。

月子は再度、インターホンを押した。

「はい、何か?」

次は男の声だった。

原田の息子さん?

「あのう…お渡ししたい物があって…」

「何ですか?お袋は顔も見たくないと…」

「玄関先で結構ですから、少しだけ出て来て貰えませんか?」

暫くしたら、息子らしき男が出て来た。

「あのう…これ、原田さんに買って頂いた部屋を…売却したお金なんです」

と、月子はバッグから分厚い封筒を取り出し、その男に差し出した。

男は一瞬驚いたが、無表情、事務的に封筒を受け取った。