月子は誰も居なくなった店に戻り、ブランデーのロックを一杯、一気に飲み干した。

マナーモードにしていた携帯見ると、着信履歴に原田、原田、原田、原田、原田、原田、原田、原田………。

伝言も留守電も、録音機能は切っていた、二人の間には……声さえも入ってきてほしくなかったから。

だが、今から、嫌でも部屋に帰らなくてはいけない…月子は様子伺おうと、原田に発信した。

呼び出し音一回で、待ってましたかの様に…嫌な声が耳に入ってきた。

「何処行ってたんだ?」

「お父さん、ごめんなさい。携帯ね、店に忘れたまま、お客さんに寿司屋に連れて行かれてたのよ。今から帰りますから」

携帯は、プチッと切られた。

原田は確実に、頭にきている。

今から帰ったらどうなるのか…大体の予想はつく。

殴る?蹴る?泣きつく?身体検査?

どうせ…また夜明けまで制裁を受けるに違いない。

でも、それでいい、そうしてほしい。

私は、今…とことん原田を嫌いになりたかった。

どうしようもなく嫌いになって、そこに憎しみが生まれれば、決心がつく。

全て捨てて、修二さんについて行く決心が生まれる…ような気がした。