「この風船、どうするの?」
リョクがアリスに問いかけた。
「最初に言ったじゃん、飛ばすんだよ!風船の紐に手紙をくくり付けて飛ばすの。」
「飛ばして、それで?」
「それで?それだけ。それでおしまい。」
「それって、何か意味あるのかな?」
リョクは控えめに、だが言いたいことは言う性格らしい。
部の名前決めの時だって普通初対面の人に『変わり者』だなんてなかなか言えないだろう事を遠慮なしに言った時に何気に気づいてはいたけれど。。。
「意味はあるよ!だって、私たちが飛ばした風船を誰かが拾うでしょ。その会った事もない誰かとつながる事ができるんだよ。拾った人がさ『この風船はどんな人が飛ばしたんだろう?』って私たちの事を想像するの。それって、ロマンだと思わない?私達は見た事もない誰かに夢を与えるんだよ!!」
アリスはいつになく熱弁していた。

ふいに、夏休み前日に木に引っかかっていた風船の事を思い出した。
あの風船はもしかしたらアリスが飛ばした物だったんだろうか?

「はいっ、何を書くかはみんな内緒ね。」
無言で考えていたショウタとリョクに紙とペンを渡すとアリスは少し離れた場所の柱を下敷き代わりにして紙に何かを書きはじめた。


「じゃあ“せーの”で飛ばそうね!いい?いくよ!」
「「「せーの!!!」」」
3人で言って一斉に手を放す。手紙を括り付けられた風船は、重みに負けじと空へと舞い上がって行く。