彼女の話しでは、健太は香椎駅に着いた途端男の胸ぐらを掴んでホームへ引きずり出し、顔面にかなり強烈な一撃を喰らわせたらしい。
「ははは…」
健太は苦笑い。「俺、マジでキレると自分でもわけわかんなくなっちゃって…」

電車はやがて、次の名島(なじま)駅に着いた。
反対側に止まっている貝塚行きが、花火客らしい人々で立錘の余地もないほどに混んでいるのを見て、二人は思わず
「うわっ」
と声を上げた。
「俺、あんな人ゴミ絶対ダメ」
「わたしも。気分が悪くなっちゃう」
「だよね…」
再び二人の目が合う。
同じだね…。
互いの瞳が、そう語りかける。
この時健太は、彼女と通じ合う“何か”を、確かに感じた。
そして、彼女とこうして再会できたのは偶然ではなく、必然―何かの縁なのだということを感じた。
「あの人たち、みんな花火大会に行くんだろうね」
電車が走り出しから、健太は半ば呆れ顔で言った。
「あれじゃ、花火を見にいくのか、人を見に行くのかわからないね」
彼女もおかしそうに言う。「わたしも危うくあのなかにまみれちゃうところだった」
「そう言えば、さっき友達と一緒じゃなかった…？」彼女は見ていたんですね、と笑うと、「いいんです…」