｢……！｣
一気に見開かれた。
そこには、“あの人”が立っていた。
健太のことを、じっと見つめて。

健太は背もたれに背中を押し付けたまま、暫くは身動きができなかった。
そして我が目を疑った。
本当に、“あの人”？
だって彼女はつい今し方、あのヤリマンどもと地下鉄の改札口へと消えていったはずでは…。
しかし健太は、彼女が団扇の柄を両手でぎゅっと握りしめているのを見て、いまの照れくささを精一杯の勇気で懸命に堪えていることを察し、その様子から間違いなくここにいるのは“あの人”だと確信した。
｢……｣
とりあえず健太は軽く会釈した。
彼女も同じようにして返す。
｢あの…｣
彼女はかすれたような声でそう言って、唇を軽くかんだ。
頬がみるみる赤く染まる。
｢いつかは…、助けていただきまして…、ありがとう、ございました…｣
そう言って彼女は、もうこれ以上は堪えられないと言わんばかりに俯いた。
｢あ、いや…。そんな、いいんですよ…｣
健太もすっかりしどろもどろ。｢こっちこそ、あんな乱暴なところ見せてしまって…｣
｢でも、嬉しかったです…。あの時は本当に怖かったですから…｣
｢はぁ…｣