しかし、その後の記憶がはっきりしない。
激しい殴打の音と、男の悲鳴以外は…。

我に返った健太が見たものは、香椎駅のホームで右手を血に染めて茫然と立ち尽くしている健太自身と、足元で鼻血を出してノビきっている酔っ払い男の姿だった。

西鉄宮地岳線はそれから二週間後の四月一日、予告通り三苫の一つ先の新宮から終点の津屋崎間が廃止となり、ついに健太の地元から姿を消した。
廃止の翌日早々に線路と架線の撤去作業が始まり、今まで胸を時めかせて改札口を通っていた駅舎も程なく取り壊され、更地と化した。
それは、健太の恋の終わりを象徴しているかのようであった。

四月。
三年生となった健太は新たな最寄り駅となったJRの福間駅まで、自転車で片道十分かけて通っている。
しかし、宮地岳線の廃線跡だけはどうしても見たくなかったので、わざと遠回りをして駅まで向かっていた。

朝でも宮地岳駅からなら楽に座れた今までの通学とは違い、同区間を走るJRはどこまで行っても混んでいて、それが健太には苦痛だった。
そして、それ以上に健太の心は空虚だった。
確かに、単線でコトコト走っていた宮地岳線に比べて、JRは断然に速い。