西鉄宮地岳線貝塚駅の改札口を浴衣姿の若い男女が大挙して出てくるのを見て、健太は初めて、今日は博多港で花火大会があることを思い出した。
「そうか、あれって今日だったのか…」
宮地岳線の改札口は福岡市の中心部を通る市営地下鉄の改札口と向かい合わせになっているので、浴衣の大群はそのままそちらへと流れて行く。
今月十八歳になったばかりの高校生・健太は、この夏休みを利用して貝塚駅近くのファミレスで調理場のアルバイトをしている。
今日は夕方六時までのはずだったのに、今日に限って客が次から次へと押し寄せたためにホールも調理場も通常以上に多忙となり、店長から一時間の延長を言い渡されて、足腰はもうクタクタだった。
大勢の花火客に対してたった二人の駅員で対応している宮地岳線の改札口、ホームへ入れるにはもうちょっと時間がかかりそうだ。
健太が壁際によけて、降車客をやり過ごしていると…。
(あっ…!)
と、思わず息をのんだ。
改札口を出る大勢の浴衣姿のなかに、“あの人”がいたからだ。

健太が朝の宮地岳線の車内で初めて“あの人”を見たのは高一の春、入学して三日目のことだった。