直射日光が窓ガラスに突き抜けていた。
美嘉は上半身をゆっくり起こして、片手で真上から照りつけてくる太陽を遮っても、ほとんど効果はない。その眩しさに顔をしかめながら、綾子にセリフを吐いた。
『ねぇ、綾子!なんか飲み物ないの?』
それからまぶたを閉じ、続けた。
『ねぇ、綾子!聞こえた?』
目をつぶってもなお感じる強烈な光のエネルギーに、美嘉はますます顔をしかめ、更に声を大にしてくりかえした。
『ちょっと~、綾子ってば、私の言うことが聞こえてんの?』『はぁ?』

隣の部屋からすっぴんのままな綾子が、テンポのずれた反応を返してきた。
『なぁに?なんだって?』

『私の言ってることがき・こ・え・た・の・かって質問したんだけど』

綾子はヘッドフォンを外して、眩しそうに目を細めて隣の美嘉をみた。

『なんだよ?』

『なんか飲み物ある?三回も言わせないでよ!』

『水なら先私が全部飲んちゃったから、自分で買いにいけよ。』

美嘉は『チッ!』と舌をうって、カバンから財布を取り出した。

『昨日まだ財布をなくしただろう?いい加減に直せよ!どんだけ探すの大変だったか!』

綾子はヘッドフォンを耳につけ直して言った。

美嘉は聞こえない振りをして、財布を握って部屋から出た。

『財布なんかなくしたっけ?いっぱいお酒飲んだから、ぜ~んぜん覚えてないもん!』
美嘉は考えながら信号を待っていた。

キレイな女がいる。美嘉は汗を滴らせ、横断歩道の向こう側の若い女を見続けていた。女をもっとよく観察する為に、美嘉は片目をすぼめた。こうすると自分が醜く、不気味に見えることを知らなかった。
女は携帯電話で楽しげに喋っていた。
腰まで長い茶髪、笑顔がとっても可愛い。

頭にサングラスを載せ、眩しさに負けじと太陽に顔を向けている。健康的なブロンズ肌、吊帯ワンピから尖った肩の骨が見える。

一瞬目があったが、女の方からすぐさま外された。おめえなんかに興味ねえよ。そう言われた気がして美嘉はあらぬ方向に向けた。