『不平を言ったり誰かを責めたりするのは、もうやめなさい。あなたが責めているものは、どれもあなたの貧しさの原因じゃないから!ふん!』

綾子は親友の美嘉の静かな寝顔をみてそう思っていた。

化粧がほとんど崩れ落ちていた美嘉は眉毛の片方は消えていた。口元のファンデーションもほぼ残ってなかった。

『不平を言っているという事実が、あなたが自分の置かれた境遇に値し、あらゆる努力と基盤でもあるじゃない。』
綾子が考えながら立ち上がった。
洗面所へ行き、洗面台の前にある鏡を覗き込んだ、歯を磨き、顔を洗った。鏡に再び映りこんだ自分の顔をみて、ふっと彼の唇の感覚を思い出して、鏡から目をそらした。

リビングへ戻った綾子は冷蔵庫から天然水を手にとり、ごくごくという音を立てながら一気にボトルに残った天然水を一滴残らず飲み干した。

………………………

俊也は着信リストを見て、少し顔をほころばせた。先週初めて指名した風俗嬢からだった。
『ぉはょ~なにしてるぅ』

聞かれたから答えを書く。
『仕事で土日しか休みがないから、また飲もうね!』
寂しがり屋の彼女達には、フレンドリーなメールが効くとよく風俗に行く友達から聞いたことがあった。

俊也には好きな子がいた、しかし彼女の電話は1ヶ月前から通じなくなっていた。

『はぁ~』小さなため息を漏らして、制服を手にとり、慣れた手つきで服を着替えた。

ポケットにしまった携帯のランプがまた光った。俊也は気づかないまま部屋から出ていた。