「は、離してっ」
本当は嫌ではないのに、意志に反して勝手に流れ出てきた拒絶の言葉。
それでも啓也は解放してはくれない。
無言で貪るように抱き締められる。
和紗はその様子に何かいつもとは違う面影を感じたが、直ぐに頭から去っていった。
いつになったら離してくれるのだろうと、諦めかけた時、急に身体が冷たくなった。
啓也が離れたのだ。
キョトンとして啓也を見るも、和紗が欲しい答えは貰えず、啓也は窓の外を見ている。
「和紗、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
振り向いたと思ったのと同時に降ってくる声。
それは普段と何の変化もない声音。
何の変化もなく和紗の耳を震わせる。

