飛翔の月


こうするしか無かった。

良いんだ、これで。

赤魏は自分に言い聞かせる。

「おい。」

赤至の声で、娘たちは洞窟から出された。

赤魏の縄も解かれ、赤魏は立ち上がった。

「んじゃあ、まずは手始めに、そこにひざまづけ。」

「は?」

「俺に服従を誓ってもらおうか。
赤魏様よォ!」

この赤至の言葉により、あたりにはどよめきが駆け巡った。

飛翔之國で“赤魏”の名を知らない者はいない。

ましてここは、その赤魏の治めている朱雀領だ。

城にいてこそ然るべきというその人が、今、己の目の前にいる男で、自分達の頭領に降ったというのだ。

見た目は、ボサボサの黒髪に、殴られて腫れた頬、切れた唇から流れて固まった血、所々切れて布きれに等しい衣服。

赤魏はとてもじゃないが、現領主サマには見えなかった。