「別に軽蔑しない。何をしていようが谷沢は谷沢だろ」

正直に言えば具体的に何をしているのか知りたい気持ちと知りたくない気持ちの間で葛藤していた。

キャバクかも知れないし、性風俗かも知れないし、愛人契約しているのかも知れない。

「ありがとう。ヤマダくんはやさしいな。彼とは違ってさ」

少し潤んだ谷沢藍の瞳。ぼくは吸い込まれるように彼女の目を見つめた。



その後もしばらくは谷沢藍といろいろと話をしたが、その事には触れる事はなかった。

触れてはいけない。
そんな気がしていた。

僕らは店が閉まるまで話続けた。
無害で差し障りのない話題を選んで。

ぼくは会社のアサミさんの話をし、谷沢藍は美容室に来る変わった客の話をした。

閉店時間を知らせる店員に追い出されるようにぼくらは店をでた。
店の前で谷沢藍はぼくにありがとね、と言って頬に軽くキスをした。

「感謝の気持ち。いろいろ聞いてくれてありがとね」

そういうと彼女は駅に向けて歩きだした。東口側に自宅があるのだ。
ぼくは自宅近くまで見送るべきだったとあとで後悔したが、その時は突然のキスにビックリして呆然としたまま手を降ることしかできなかった。