「その子さぁ、だいぶ問題あるはず。わかるかな?真っ直ぐに当たった光を受け止めるでもなく、跳ね返すでもなく、方向を変えてしまう、そういう子だよ」

「それはどういう?」

同級生を悪く言われるのは、あまり気持ち良いものじゃない。言葉にそんな感情が込められている事を敏感に察したのか、あさみさんは説明を補足する。

「気を悪くしないで欲しいの。彼女が屈折していて、飛び切り性格が悪いって言いたいんじゃないんだよ。まるで悪気なんてないの。逆に無意識に当てられた光を意図せずに曲げてしまう、それが問題なの」

ぼくにはいまいち理解できなかった。あさみさんは続ける。

「多分、そのうちわかる。ヤマダくんは彼女を救いたいと思った時に、ああ、あさみさんが言いたかったのはこういう事かってね」

「今のところは救うとか救われるとかは一切考えてないですよ。タクシー代だけは返さないと、ってくらいで」

あさみさんは微笑む。年上らしい落ち着いた顔で。

「できれば救ってあげて欲しいな。屈折云々ってのは、むしろアタシが抱えてるからさ。だからこそ、その手前にいる子はなんとかしてあげて欲しい。こんな事を老婆心ながらに話させて貰ったわけ」

甘酒横町の終点の交差点に辿り着いてしまった。中年サラリーマンの姿がちらほらと目に付く程度の深夜の静かな交差点。

あさみさんは水天宮前駅から帰宅するのでここでお別れだ。

「あさみさんって面白い人ですね。楽しかったです、今日は」

「明日からはまたいつもの仕事モードに戻るからね。この手の話は業務時間外ね。じゃあねー」

そういい残すと颯爽と水天宮方面に向かって歩き出した。

ピンと背筋の伸びたあさみさんの姿を見送りながらも、既にぼくの頭の中は谷沢藍の事で一杯になっていた。