「!?」

 剛が、後ろを振り向くと、そこには水着入れを持った端整は顔立ちの少年がいた。
 どうやら、さっきの衝撃は水着入れが当たったものだったらしい。
 少年は、悪びれる様子もなく、得意げである。

「この~、タケル~?」
「よう!剛っち~、お兄さんに何か用かい?」

 そう言うと、にんまりと少年は笑った。
 この少年の名は、小野寺タケル。剛と同じ学年で、御代町にある五玖真寺という寺の一人息子。自分の事を『お兄さん』と呼んだり、『タケちゃん』と呼んだり、変わり者であるが、学年で一番の成績である。

「何か用かい?は無いだろ~。人を水着入れでぶっ叩いといて・・・」
「もう、剛っちは酷いな~。タケちゃん、傷ついたよぉ~ん?」

 そう言うと、タケルは剛の肩に手を掛ける。はっきり言って、キモイ事この上ない。

「や、止めろって!あっ!信号が変わった。早く渡るぞ!」

 信号を口実に剛が逃げると、「ちぇっ!つまんないの」と渋々タケルも後を追う。
 そんな事をしながら、二人が歩いていくと、T字路に差し掛かかった。すると、道の曲がり角から、二人の少し前に一人の髪をツインテールにした女子が現れた。
 剛はその後ろ姿に見覚えがあり、声を掛ける。

「お~い。ミオ~」

 すると、ミオと呼ばれた女子は振り返る。すると、綺麗に結わえてあるツインテールがふわりと舞い、ミオの顔の前を一瞬通り過ぎる。その顔の綺麗さに思わず、剛は息を呑んだ。

 その顔は、両目がくっきりとした二重、すらりとした鼻筋、潤いを程よく持った桃色の唇で構成され、顔の全てのパーツの大きさが丁度良く、まるで日本人形のようにも見える。

 しかし、人形のような顔をしているのに、口調はまるで反比例であった。

「おやまあ。剛、一体どうしたん?」

 何処の方言か分からないこの口調、これさえ無ければ、ミオはアイドルにでもなれるだろうに・・・と、常々剛は思うのだが、この口調があるから自分達がこんなにも親しみを込めて話せるのだとも分かっていた。それに、剛はミオのこの口調が気に入っている。

 何処にも着飾る感じがなく、男女気にせず話せる。
 剛がこんな事を考えていると、いつの間にかミオが顔を覗き込んでいた。