途中、リビングを通ると、一枚の走り書きされた書置きを見つけて手に取る。
 やけに長い書置きだが、剛なりに解釈すると次のようなものだった。

 母さんは今日も朝早くから仕事です。帰りは遅くなるから、適当に料理でも作って食べて。

 剛は、またポリポリと頭を掻くと、何事も無かったかのように風呂を目指した。
 剛の家には父がいない・・・いや、正確にはもういない。剛の父、大輝は、剛が四つの時に交通事故で死に、今は母の時枝と二人暮しをしている。

 母は、世間で言うキャリアウーマンで、家に居る時間よりも会社にいる時間の方が多い。家に帰ってきても、深夜なので剛はここ数年、母とまともに話した事は殆どない。

 しかし、特に仲が悪いという訳ではない。
 ある意味、理想の親子関係である。
 剛は、簡単にシャワーを浴びると、リビングに掛けてある時計を見る。
 時間は8時00分、剛の学校は8時40分からなので、まだ時間は十分である。

 それから、剛は朝食を抜いて歯を磨き、学校に出発した。
 剛の学校、御代中学校は、御代町唯一の中学校で、2学年の生徒総数は百人程、全校で三百ちょっとである。

 御代中学は、生徒の人数は少ないが、その代わりに生徒一人一人の相談に対して先生達が真剣に相談に乗ってくれる・・・というのが一応、学校側のセールスポイントになってはいるが、剛自身は一度も相談に乗ってもらった事もなければ、相談した事もないので、真偽は不明である。

 そうこうする内に、剛は学校に向かうために通る信号の一つ目に着いていた。
 目の前を、まばらに車が通り過ぎていく。それを、剛がボンヤリと見ていると、いきなり剛を衝撃が襲った。

ドンッ!